
人手不足が深刻化する業界では、外国人材を受け入れ人員を確保している企業が増えています。外国人材の受け入れに長年利用されてきた「外国人技能実習制度」は、一定の役割を果たしてきた一方で、多くの問題点が国内外から指摘されてきました。
そこで今回は、外国人技能実習制度の概要や特定技能との違い、対象となる職種・業種、受け入れの流れ、制度が廃止される理由などについて解説します。これから外国人材の活用を検討している企業担当者の方は、ぜひ参考にしてください。
技能実習制度とは
技能実習制度は、国際貢献のために開発途上国等の外国人を日本に一定期間受け入れ、技能を母国に移転し経済発展に活かしてもらうことを目的に1993年に創設された制度です。
項目 | 内容 |
---|---|
制度の目的 | ・人材育成 ・技術移転 ・国際貢献 |
受け入れ方法 | 企業単独型もしくは団体監理型 |
受け入れ職種 | 91職種168作業 |
在留期間 | 最長5年 ・技能実習1号:1年 ・技能実習2号:2年 ・技能実習3号:2年 |
待遇 | 最低賃金以上保証、原則として日本人と同等の待遇 |
技能実習生の受け入れには、「企業単独型」と「団体監理型」があります。
企業単独型は、海外の現地法人などと連携して、企業が直接技能実習生を受け入れる方式です。企業が技能実習生の生活面や業務面の支援も行います。
団体監理型は、企業が監理団体を通じて技能実習生を受け入れる方式で、生活面の支援も監理団体がサポートしてくれます。令和4年末時点では、98.3%が団体監理型で技能実習生を受け入れています。
実習の対象職種は、91職種168作業が認定されています。段階的に技能を習得する仕組みとなっており、技能実習1号、2号、3号に分かれています。
在留期間は技能実習1号が1年間、技能実習2号が2年間、技能実習3号が2年間と最長5年間の滞在が認められています。
参照元:育成就労制度の概要(厚生労働省)
外国人技能実習生の受け入れ人数
外国人技能実習生の受け入れ人数は、上限が決められています。基本人数枠と団体監理型、企業単独型の受け入れ人数は次の表のとおりです。
基本人数枠
実習実施者の常勤職員の総数 | 技能実習生の人数 |
---|---|
301人以上 | 常勤職員総数の20分の1 |
201~300人 | 15人 |
101~200人 | 10人 |
51~100人 | 6人 |
41~50人 | 5人 |
31~40人 | 4人 |
30人以下 | 3人 |
団体監理型
通常の者 | 優良基準適合者 | |||
第1号 | 第2号 | 第1号 | 第2号 | 第3号 |
基本人数枠 | 基本人数枠の2倍 | 基本人数枠の2倍 | 基本人数枠の4倍 | 基本人数枠の6倍 |
企業単独型
企業 | 通常の者 | 優良基準適合者 | |||
第1号 | 第2号 | 第1号 | 第2号 | 第3号 | |
出入国在留管理庁長官および厚生労働大臣が継続的で安定的な実習を行わせる体制を有すると認める企業 | 基本人数枠 | 基本人数枠の2倍 | 基本人数枠の2倍 | 基本人数枠の4倍 | 基本人数枠の6倍 |
上記以外の企業 | 常勤職員総数の20分の1 | 常勤職員総数の10分の1 | 常勤職員総数の10分の1 | 常勤職員総数の5分の1 | 常勤職員総数の10分の3 |
企業単独型でも、出入国在留管理庁及び厚生労働大臣が継続的で安定的な実習を行わせる体制を整備していると認める企業の受け入れ人数枠は、団体監理型の受け入れ人数枠と同じになります。
常勤職員の判断基準
常勤職員とは、正社員と同様の就業時間で継続的に勤務している日給月給者を含みます。具体的には次の要件が判断基準となります。
- 所定労働日数が週5日以上かつ年間217日以上であって、かつ週所定労働時間が30時間以上であること
- 入社後6ヶ月間継続勤務して、全労働日の8割以上出勤した場合、10日以上の年次有給休暇が付与されること
- 雇用保険の被保険者であり、かつ一週間の所定労働時間が30時間であること
※技能実習生(1号、2号及び3号)は常勤職員数にカウントされません。
参照元:よくある御質問(技能実習計画の認定申請関係)(OTIT)
優良基準適合者とは
優良基準適合者とは、外国人技能実習制度において、一定の基準を満たした監理団体や実習実施者(受け入れ企業)に対して与えられる認定ステータスのことです。優良基準適合者の認定要件は、過去の技能実習の実績や支援体制などが150点満点で評価され、90点以上で優良基準適合者として認定されます。
詳しい評価項目や配点については、出入国在留管理庁・厚生労働省編「技能実習制度運用要領」の中で、実習実施者についてはP113〜、監理団体についてはP231〜の表で確認できます。
優良基準適合者に認定されると、外国人技能実習生の受け入れ枠の拡大や技能実習3号の受け入れが可能になります。
技能実習と特定技能の違い
技能実習と特定技能の主な違いをまとめると、下の表のようになります。
項目 | 技能実習 | 特定技能 |
---|---|---|
在留期間 | 最長5年 | 1号は最長5年、2号は更新制限なし |
転職 | 原則不可 | 可能 |
日本語能力 | 要件なし(介護は日本語能力試験N4レベル) | 1号は日本語能力試験N4レベル以上 |
家族の帯同 | 原則不可 | 1号は不可、2号は要件を満たせば可能 |
受け入れ人数 | 制限あり | 制限なし(介護・建設は制限あり) |
支援 | 実習先や監理団体が支援 | 1号は支援義務あり、2号は支援義務なし |
在留期間
技能実習と特定技能1号は通算5年までですが、特定技能2号は更新すれば在留期間の上限がありません。
転職
技能実習は、原則的に認められていませんが、特定技能は転職が認められています。
日本語能力
技能実習には日本語要件はありません(介護は日本語能力試験N4レベル)。特定技能1号は、日本語能力試験N4レベルが求められています。
家族の帯同
技能実習と特定技能1号は認められていません。特定技能2号は、配偶者や子どもとの関係を証明する書類、家族を扶養できる経済力があることを証明する書類を揃えられれば、配偶者と子どもの帯同が認められます。
受け入れ人数
技能実習は、外国人材の受け入れ人数に制限があります。一方、介護や建設を除く特定技能は、受け入れ人数の制限はありません。
支援
技能実習と特定技能1号は、支援義務がありますが、特定技能2号は支援義務がありません。
技能実習から特定技能への移行要件
次の要件を満たせば、技能実習から特定技能へ試験免除で移行することができます。
- 技能実習2号を良好に修了している
- 技能実習での職種・作業内容と特定技能1号の業務に関連性が認められること
それぞれの要件について詳しく解説します。
技能実習2号を良好に修了している
技能実習2号を良好に修了しているとは、次の項目を満たしていることを意味します。
- 技能実習計画通りに、技能実習を2年10ヶ月以上修了している
- 技能検定3級もしくはこれに相当する技能実習評価試験の実技試験に合格している
- 実習実施者から出勤状況や技能の習得状況、生活態度などを記載した「評価調書」を取得している
技能実習1号から特定技能への移行は認められていません。また、技能実習3号から特定技能への移行は、たとえ技能実習2号を良好に修了していたとしても、技能実習3号も良好に修了していることが求められます。
技能実習での職種・作業内容と特定技能1号の業務に関連性が認められること
技能実習から特定技能1号へ試験免除で移行するためには、移行したい特定技能の職種と技能実習で従事してきた職種に関連性が認められる必要があります。技能実習の職種から特定技能へ移行できる分野は、出入国在留管理庁の「特定技能ガイドブック」で確認可能です。
外国人技能実習の対象となる職種・業種
外国人技能実習生はすべての職種で受け入れ可能というわけではありません。そのため、外国人技能実習生を受け入れる前に、受け入れ可能な職種・業種であるかを確認する必要があります。ここでは、外国人技能実習の対象となる職種・業種について解説します。
外国人技能実習生の受け入れ可能な業種一覧
技能実習の受け入れ対象となる業種は次のとおりです。
- 農業(3職種7作業)
- 漁業(2職種10作業)
- 建設業(22職種33作業)
- 食品製造業(11職種19作業)
- 繊維・衣服関係(13職種22作業)
- 機会・金属関係(17職種34作業)
- その他(21職種39作業)
- 社内検定型の職種・作業(2職種4作業)
2025年5月現在、91職種168作業が対象職種となっています。詳しくは「技能実習制度 移行対象職種・作業一覧」で確認可能です。
必須業務・関連業務・周辺業務
外国人技能実習生を受け入れるには、対象職種・業種だけでなく、必須業務と関連業務、周辺業務について理解する必要があります。
必須業務は、従事する職種・業務で技能実習生が習得しなければならない中核的な作業です。関連業務と周辺業務は、必須業務をスムーズに行うために必要な補助的な業務を指します。
必須業務は年間実習時間の1/2以上、関連業務は全体の1/2以下、周辺業務は全体の1/3以下と決まっており、技能実習計画に盛り込む必要があります。そのため、外国人技能実習生に担当させる予定の業務が、必須業務や関連業務、周辺業務の規定された基準を満たしていない場合は、受け入れが認められません。
必須業務・関連業務・周辺業務が規定されている意味
技能実習制度は、人材育成を目的としています。従事する職種・業務ごとに習得すべき技能が規定されており、それに基づいて検定試験や評価試験の内容が決まっています。必須業務および関連業務・周辺業務に規定された割合を守らない場合、不適切な実習を行っていると見なされ、指導や是正勧告、実習停止処分を受ける可能性があるため、注意が必要です。
各職種・業種の必須業務・関連業務・周辺業務は「技能実習計画審査基準・技能実習実施計画書モデル例・技能実習評価試験試験基準」で確認できます。
外国人技能実習生の受け入れの流れ
外国人技能実習生を受け入れるには、さまざまな準備をしなければなりません。受け入れの流れは次のとおりです。
- 適切な監理団体の選定
- 技能実習計画の策定と認定申請
- 実習生の選抜および在留資格認定証明書の申請
- 入国準備と来日前のサポート
- 雇用後のフォローアップと定期報告
適切な監理団体の選定
技能実習をスムーズに進めるためには、信頼性の高い監理団体を選定することが重要です。
外国人技能実習生に手厚いサポートを行ってくれる監理団体に依頼すれば、企業は技能実習を進めることに集中できます。そのため、実績や支援体制などを十分に比較・検討した上で監理団体を選定しなければなりません。
監理団体選定後は、連携して外国人技能実習生の受け入れ準備を進めていきます。
技能実習計画の策定と認定申請
受け入れ企業は、実習内容や指導体制(技能実習責任者、技能実習指導員、生活指導員の選任)、労働条件などを盛り込んだ技能実習計画を作成し、外国人技能実習機構へ認定申請を行います。申請から認定まで通常1〜2ヶ月程度かかるため、十分な余裕を持って技能実習計画を作成・提出することをおすすめします。
技能実習責任者が満たすべき条件
技能実習責任者は、技能実習にかかわる職員の責任者であり、技能実習指導員や生活指導員を監督する役割があります。技能実習責任者は、次の要件を満たす者でなくてはなりません。
- 実習実施者またはその常勤の役員もしくは職員である者
- 技能実習指導員や生活指導員、その他の技能実習に関わる職員を監督することができる立場にある者
- 過去3年以内に技能実習責任者講習を修了した者
技能実習責任者に対する講習の日程は、養成講習機関(出入国在留管理庁)や外国人技能実習制度における養成講習について(厚生労働省)で確認できます。
技能実習指導員が満たすべき条件
技能実習指導員は、技能実習生に業務を教えて技能を習得するのを助ける役職です。技能実習指導員が満たすべき要件は次のとおりです。
- 実習実施者またはその常勤の役員もしくは職員のうち、技能実習を行わせる事業所に所属する者
- 修得させようとする技能について5年以上の経験がある者
生活指導員が満たすべき条件
生活指導員は、技能実習生の生活支援をする役職です。外国人技能実習生に日本の習慣やルールなどを教え、日本での生活への適応を助けます。
生活指導員は、実習実施者またはその常勤の役員もしくは職員のうち、技能実習を行う事業所に所属する者でなくてはなりません。
実習生の選抜および在留資格認定証明書の申請
現地の送り出し機関と連携し、実習候補者を選抜します。その後、出入国在留管理庁へ在留資格認定証明書申請を行います。
在留資格認定証明書の有効期限は、発行後3ヶ月です。有効期限を過ぎて失効しないように、外国人技能実習生の渡航スケジュールに合わせて在留資格認定証明書の申請を行いましょう。
入国準備と来日前のサポート
在留資格認定証明書が交付された後、実習生のビザ取得や航空券の手配などスムーズに入国できるよう準備をします。
外国人技能実習生は、入国後1ヶ月程度、日本での生活や実習に適応するための講習を受講します。その間に、企業は住民登録手続きや携帯電話の契約など、外国人技能実習生が日本で生活するために必要な準備を進めておかなければなりません。
実習開始後のフォローアップと定期報告
実習開始後は、外国人技能実習生が、安心して実習に取り組み、日本での生活に溶け込めるように業務面・生活面でのサポートを行います。
さらに、企業には実習実施者届出書や実習の実施状況報告などをOTITに定期的に報告する義務もあります。報告義務を怠ると、改善命令や認定の取り消し処分を受けることがあるため注意が必要です。
さらに、虚偽報告や不正申請などを行った企業は、刑事罰を科せられる可能性があります。
参照元:外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律
外国人技能実習生雇用後に企業が行うサポート
受け入れ企業は、外国人技能実習生に適切なサポートを行う責任があります。次のことが技能実習生を雇用後に企業が行う主なサポート内容です。
- 技能実習計画の適切な実施
- 日常生活支援
- 日本語・日本文化への適応支援
- 労働関係法令の遵守
- 相談体制の整備
技能実習計画の適切な実施
受け入れ企業は、作成した技能実習計画に沿って、適切に実習内容や指導を行う必要があります。技能実習計画と異なる業務に従事させてはいけません。
日常生活支援
外国人技能実習生の住居の用意、ゴミの出し方や交通ルールなど生活のルールを教えるなどして、日本で快適に生活できるように支援する必要があります。
日本語・日本文化への適応支援
受け入れ企業は、外国人技能実習生が実習内容を理解できるように、日本語教育を支援しなければなりません。さらに、日本の習慣や文化を教え、日本社会への適応支援をする必要があります。
労働関係法令の遵守
最低賃金、労働時間、残業手当、有給休暇などについて、外国人技能実習生には日本人労働者と同様に労働法令が適用されます。受け入れ企業は、関係法令を理解し、遵守しなければなりません。
最低賃金は、働くすべての人に最低限保証される賃金であり、最低賃金法に規定されています。たとえ、企業と外国人技能実習生が合意していたとしても、最低賃金未満の賃金で業務に従事させることは違法です。
労働時間は、1日8時間、週40時間(法定労働時間)を超えて労働させてはならないことが労働基準法第32条に規定されています。法定労働時間以上の労働には25%以上の割増賃金、
休日労働には35%以上の割増賃金を支払わなければなりません。
外国人技能実習生は、雇用開始から6ヶ月間継続勤務し、かつ全労働日の8割以上出勤していれば、年10日の有給休暇が認められています。有給休暇は外国人技能実習生の権利であり、企業側は話し合いで日程の調整はできますが、拒否することはできません。
相談体制の整備
受け入れ企業は、外国人技能実習生がハラスメントや不当な扱いなどに対して相談できる体制を整備しなければなりません。必要に応じて通訳を用意するなど、外国人技能実習生が安心して相談できるように配慮することが重要です。
技能実習制度が廃止される主な理由と育成就労制度の概要
技能実習制度にはさまざまな問題があり、廃止が決定され、代わりに育成就労制度の創設が決定しています。ここでは、技能実習制度が廃止される主な理由と、新制度である「育成就労制度」の概要を解説します。
技能実習制度が廃止される主な理由
以前から技能実習制度は、制度の目的と実態が乖離していると指摘されていました。
技能実習法の第3条第2項には「技能実習は、労働力の需給の調整の手段として行われてはならない」と記載されています。しかし、技能実習制度は、人手不足を補う安価な労働力として利用されているケースが多いです。
さらに、次のような問題が報告され、制度の見直しが求められるようになりました。
- 低賃金や残業代の未払い
- 長時間労働
- 実習生の犯罪への関与
- ハラスメント
- 失踪
このような問題を解消するために、2023年11月に技能実習制度を発展的に解消し、「育成就労制度」の創設が決定されました。
育成就労制度の概要
育成就労制度は、2027年に開始が予定されています。主な概要は下の表のとおりです。
項目 | 内容 |
---|---|
目的 | 人材育成、労働力確保 |
在留期間 | 最長3年 |
転職 | 要件を満たせば本人希望の転職可能 |
日本語能力 | 原則日本語能力試験N5以上 |
在留期間は、技能実習制度の最長5年から最長3年になりました。また、技能実習制度では認められていなかった転職が、同一企業で1年以上の就労実績や技能実習評価試験に合格するなどの条件を満たせば、同一職種に限り認められます。
まとめ
人手不足に悩む多くの企業は、若い外国人材の確保のために、外国人技能実習生を受け入れています。しかし、技能実習制度は、低賃金や長時間労働、失踪などさまざまな問題を抱えていたため、発展的解消し育成就労制度を創設することが決定しました。
受け入れ企業は、生活面や業務面の支援体制を整えることが求められています。しかし、外国人技能実習生を初めて受け入れる企業の中にはノウハウがなく、適切な支援体制を整えることが難しいケースも少なくありません。そのような場合は、外部の信頼できるパートナーに依頼し、サポートしてもらうことがおすすめです。