
日本の介護業界は、少子高齢化に伴い深刻な人手不足に直面しています。実際、人手不足により、経営に支障をきたしている企業も少なくありません。このような状況で注目を集めているのが、外国人技能実習生の受け入れです。外国人技能実習生を受け入れるには、企業が満たさなければならない要件があります。
そこで今回は、技能実習制度の概要や受入れ機関(受入れ企業)が満たすべき要件や、介護分野に外国人技能実習生を受け入れるメリット・デメリット、受け入れ後のサポート、注意点について解説します。
技能実習「介護」とは
在留資格「技能実習」は、日本から他国への技能移転による国際貢献を目的に創設された制度です。日本で身につけた技能や知識を母国に持ち帰り、経済発展に活かしてもらうことを目指しています。介護業界の慢性的な人手不足解消のために、2017年11月技能実習の対象職種に介護職が追加されました。ここでは、技能実習「介護」の概要を解説します。
外国人技能実習生の受け入れ状況
介護分野での外国人在留者数は2023年には約4万人でしたが、2024年には7万人を超えており、今後もしばらく増加傾向が続くと予想されます。特に、技能実習「介護」と特定技能「介護」外国人材で6万人以上、全体の80%以上を占めています。多くの企業は、技能実習「介護」と特定技能「介護」外国人材を受け入れることで、人手不足解消に取り組んでいます。
在留資格 | 受入実績 |
---|---|
EPA介護福祉士・候補者 | 2,858人 ※2024年11月1日時点 |
在留資格「介護」 | 10,468人 ※2024年6月末時点 |
技能実習「介護」 | 15,909人 ※2023年末時点 |
特定技能「介護」 | 44,367人 ※2024年12月末時点 |
参照元:
技能実習「介護」以外に介護ができる在留資格
介護業務に従事できる在留資格は主に次の3種類があり、それぞれ特徴があります。
- 技能実習「介護」
- 在留資格「介護」
- 特定技能「介護」
項目 | 技能実習「介護」 | 在留資格「介護」 | 特定技能「介護」 |
---|---|---|---|
在留期間 | 最長5年 | 更新回数の制限なし | 最長5年 |
日本語能力 | 日本語能力試験N4 | 日本語能力試験N2相当の人が多い ※法律上の要件はなし | 日本語能力試験N4 |
所有資格 | なし | 介護福祉士 | なし |
即戦力 | 即戦力になりにくい | 即戦力になる | 即戦力になる |
夜勤 | 制限あり | 可能 | 可能 |
家族の帯同 | 不可 | 可能 | 不可 |
転職 | 原則不可 | 可能 | 可能 |
技能実習「介護」は、他の2つの在留資格に比べると比較的安価に雇用できますが、育成を目的としているため即戦力になりにくく、実際に介護業務に従事できるようになるまで数ヶ月かかるケースが多くみられます。
また、他の2つの在留資格には認められている一人での夜勤も、技能習得という目的にそぐわず、実習の成果を評価しにくいということもあり認められていません。
技能実習生は、日本で習得した知識や技能を活かして母国の経済発展に貢献することが期待されているため、短期雇用に向いています。
技能実習「介護」の訪問介護解禁
介護業界内でも特に深刻な人手不足に直面している訪問介護職員の人材確保が急務であることから、2025年4月1日から外国人技能実習生が訪問介護に従事することが認められるようになりました。技能実習生が訪問介護に従事するために満たすべき要件は次の3点です。
- 介護職員初任者研修以上の修了
- 1年以上の施設での介護経験
- 訪問介護向け追加研修
それぞれの要件を詳しく解説します。
参照元:令和5年度介護労働実態調査結果の概要について(公益財団法人介護労働安定センター)
介護職員初任者研修以上の修了
介護職員初任者研修は、介護の基本スキルや知識を習得するための研修です。食事・排泄・入浴・移動などの介助方法や高齢者の身体機能や心理の理解、感染症予防、安全な介護技術などを学びます。
訪問介護では施設介護よりも利用者や家族との距離が近くなりやすいため、適切な話し方や言葉遣い、非言語コミュニケーション、プライバシーの配慮、生活習慣への理解なども研修内容となっています。
1年以上の施設での介護経験
日本の特別養護老人ホームや介護老人保健施設、介護付き有料老人ホームなどの介護施設で、1年以上の介護業務に従事した経験が求められます。
訪問介護は、一人で利用者宅に出向いてケアを行うことが多く、利用者の転倒や体調急変などの緊急時に一人で柔軟に対応する能力が求められます。そのため、介護施設で経験を積んだ外国人材でなければ、一人での訪問介護は難しいとされています。
訪問介護向け追加研修の修了
訪問介護向け追加研修では、安全・適切に訪問介護サービスが提供できるように必要な対応力を学びます。具体的な研修内容は、訪問介護の基礎知識や緊急時の対応、訪問先でのマナー、記録業務や報告・連絡・相談の方法などです。
外国人技能実習生の訪問介護業務に伴う受入れ機関の支援体制
外国人技能実習生を訪問介護業務に従事させるには、受入れ機関が満たさなければならない体制整備があります。
- 外国人材に対し、訪問介護等の業務の基本事項等に関する研修を行うこと
- 外国人材が訪問介護等の業務に従事する際、一定期間、責任者等が同行する等により必要な訓練を行うこと
- 外国人材に対し、訪問介護等における業務の内容等について丁寧に説明を行いその意向等を確認しつつ、キャリアアップ計画を作成すること
- ハラスメント防止のために相談窓口の設置等の必要な措置を講ずること
- 外国人材が訪問介護等の業務に従事する現場において不測の事態が発生した場合等に適切な対応を行うことができるよう、情報通信技術の活用を含めた必要な環境整備を行うこと
上記を適切に行える体制・計画を整えたことを報告する書類を、事前に巡回訪問等実施機関に提出し、適合確認書の交付を受けなければなりません。
参照元:外国人材の訪問系サービスへの従事について(厚生労働省)
訪問介護向け研修の実施
外国人技能実習生が訪問介護業務に従事できるようにするには、訪問介護の基本技能や緊急時の対応、マナー、安全管理などについて学ぶための研修を実施することが必要です。研修を実施することで、訪問介護の質を確保するとともにトラブル防止につながります。
同行指導の実施
外国人技能実習生がスムーズに介護業務を行えるように、一定期間責任者や先輩職員が同行し、訪問介護に必要な対応や利用者との接し方、緊急時の対応などに関する訓練を行うことが求められます。実際の業務を通じた同行指導により、必要な知識や技能、判断力を身につけ、適切な訪問介護サービスを提供できるようになります。
業務説明と意向確認に基づくキャリア計画の作成
外国人技能実習生が訪問介護業務に従事する前に、業務内容を丁寧に説明し、実習生の理解と納得を得ることが重要です。さらに実習生の将来についての希望や意向を確認しながら、その内容を反映したキャリアアップ計画を作成することが求められています。
訪問介護業務の理解を深めるとともに、将来への展望を持ち高いモチベーションで介護業務に取り組むことが期待できます。
ハラスメント防止措置の実施
外国人技能実習生が安心して働ける環境を整備するには、ハラスメントを未然に防止する体制作りが大切です。相談窓口などを設置して、悩みをひとりで抱え込まず誰かに相談できる環境作りが求められます。職場内の人間関係のトラブルを防ぎ、外国人技能実習生の定着率向上につながります。
不測の事態に備えた環境整備の実施
外国人技能実習生が訪問介護業務に従事しているとき、利用者の急な体調不良など不測の事態が発生する可能性があります。そうした際に、適切な対応ができるよう、情報通信技術(ICT)の活用を含めた支援体制や緊急時マニュアルの整備など必要な環境を整えておくことが求められています。そうすることで、外国人技能実習生は安心して業務に取り組め、利用者に安全な訪問介護サービスを提供できます。
外国人技能実習における介護職種の満たすべき固有要件
技能実習「介護」には、技能実習制度共通の要件に加えて、次のような介護職種の固有要件があります。
- コミュニケーション能力の確保
- 適切な実習実施者の対象範囲の設定
- 適切な実習体制の確保
- 監理団体による監理の徹底
それぞれの固有要件について詳しく解説します。
コミュニケーション能力の確保
介護業務に従事する外国人技能実習生には、日本語で日常会話や介護用語が理解できるレベルの日本語能力が求められています。
- 第1号技能実習は日本語能力試験N4に合格している者その他これと同等以上の能力を有すると認められる者であること
- 第2号技能実習は日本語能力試験N3に合格している者その他これと同等以上の能力を有すると認められる者であること
適切な実習実施者の対象範囲の設定
介護の業務が実際に行われている事業所を対象とし、介護福祉国家試験の実務経験対象施設が前提となります。経営が一定程度安定している事業所として設立後3年を経過している事業所が対象です。
適切な実習体制の確保
受け入れることができる技能実習生は、事業所単位で介護などを主たる業務としている常勤介護職員の総数が上限です。技能実習生5人につき1名以上の技能実習指導員が担当し、そのうち1名以上は介護福祉士などの有資格者である必要があります。
監理団体による監理の徹底
監理団体の役職員に5年以上の実務経験を有する介護福祉士などを配置することが求められています。そうすることで、実習生や労働者が実際の介護現場で直面する問題に対して、適切な指導やサポートが行えます。
参照元:技能実習「介護」における固有要件について(厚生労働省)
外国人技能実習生の受け入れ手続きと流れ
外国人技能実習生を受け入れるには、さまざまな手続きをしなければなりません。不備が生じると受け入れまでに時間がかかったり、受け入れ不可になってしまったりすることがあるため、事前に確認しておくことが大切です。受け入れ手続きの流れは次のとおりです。
- 監理団体の選定
- 技能実習計画の作成と認定申請
- 実習生の選定と在留資格認定証明書交付申請
- 外国人技能実習生の入国準備
- 受け入れ後のサポートと報告
それぞれの手続きについて詳しく解説します。
1.監理団体の選定
外国人技能実習生を受け入れる際は、監理団体を選定しなければなりません。
監理団体は、受入れ機関にとって外国人技能実習生を受け入れるためのパートナーともいえる存在です。実績やサポート体制などを確認し、自社に合った監理団体を選定します。連携しながら費用や手続き、受け入れ体制の整備などを相談し、外国人技能実習生の受け入れ準備を進めていきます。
トラブルが発生したときや受け入れ手続きを迅速かつ適切にサポートしてくれる監理団体に依頼できれば、企業は技能実習に集中して取り組めます。そのため、信頼できる監理団体を慎重に選ばなくてはなりません。
2.技能実習計画の作成と認定申請
外国人技能実習機構(OTIT)が定める様式に従い、実習内容やスケジュール、指導担当者、生活支援、日本語教育体制などを含めた技能実習計画を作成しなければなりません。さらに、企業による安全教育の体制や技能検定試験の受験計画も盛り込む必要があります。
技能実習計画が作成できたら、受入れ機関に代わって監理団体がOTITへ提出します。申請から認定まで1〜2ヶ月かかることが多いため、スケジュールに余裕を持って技能実習計画を作成し提出することが重要です。
また、受入れ機関は、並行して外国人技能実習生が生活する住居の確保、家具・家電の準備なども始めておくことが推奨されます。
3.実習生の選定と在留資格認定証明書交付申請
監理団体と提携している送り出し団体に、希望する外国人技能実習生の条件(年齢や性別、職歴、日本語能力、性格など)を伝えます。送り出し団体は、企業の条件に基づき実習候補者をリストアップし、履歴書や日本語学習状況などの情報を提供します。
受入れ企業は、提供してもらった情報を参考にして候補者を絞り込み、オンラインや現地での対面面接で採用する外国人技能実習生を決定します。
実習生を選定したら、実習計画の認定通知書を取得し、出入国在留管理庁に在留資格認定証明書交付申請をします。審査の結果、入国のための基準に適合していると判断されれば「技能実習1号」の在留資格認定証明書が発行されます。
在留資格認定証明書の有効期限は、発行してから3ヶ月です。証明書は有効期限を過ぎると失効してしまうため、外国人技能実習生の渡航スケジュールに配慮し申請するようにしましょう。
4.外国人技能実習生の入国準備
外国人技能実習生が入国したら、まず1ヶ月程度、入国後講習を受けます。この講習では、日本語や生活マナー、労働関連法令などについて学び、日本での生活や就労に適応するための準備をします。
外国人技能実習生が入国後講習を受けている間、受入れ企業は実習生が日本で生活を始められるように、さまざまな準備を進めておく必要があります。たとえば、役所での住民票登録手続きや銀行口座の開設、携帯電話の契約など、生活するために必要な支援を行います。さらに、外国人技能実習生を受け入れるために事業所内の体制を整えておくと、実習をスムーズに始められます。
5.受け入れ後のサポートと報告
外国人技能実習生が安心して実習に取り組むには、生活面でのサポートが不可欠です。
たとえば、ゴミ出しや交通ルールの説明、地域コミュニティとの交流促進など、実習生が日本社会に溶け込み、安心して暮らせるように支援することが重要です。また、相談窓口の設置や母国語の通訳の確保なども、外国人技能実習生が精神的に安定し、スムーズに職場に適応するためには有効な支援策です。
一方、受入れ企業には実習実施者届出書や実施状況報告などをOTITに報告する必要があります。日頃から監理団体と連携して外国人技能実習生を適切に管理し、正確な報告を行うことが求められています。
外国人技能実習生を受け入れる際の注意点
外国人技能実習生を受け入れるとき、文化的背景の理解や法令遵守、適切な労働環境の整備などに配慮することが、定着率向上につながります。受入れ企業には、外国人技能実習生が安心して働ける環境を整えることが求められています。最後に、外国人技能実習生を受け入れる際の注意点について解説します。
- 文化や言語に配慮する
- ハラスメントや人権侵害を防止する
- 労働関連法令を遵守する
- 信頼できる監理団体を選定する
文化や言語に配慮する
業務の説明に理解しやすいやさしい日本語を使い、必要なら翻訳アプリなどを用意しておくと、外国人技能実習生が業務に取り組みやすくなります。
また、宗教文化の理解を深めるために社内研修を行うと、宗教的な衝突を回避するのに役立ちます。
ハラスメントや人権侵害を防止する
外国人技能実習生が孤立を防ぐために、定期的に面談やカウンセリングの機会を設け、業務上や日常生活での悩みなどを聞く機会を設けることが重要です。
また、ハラスメントや人権侵害を防止するための研修を日本人職員に対して実施し、宗教・価値観・文化的背景の違いを理解した上での接し方を学ぶ機会を設ける必要があります。
労働関連法令を遵守する
技能実習制度は、人材育成を目的としており、外国人技能実習生を人手不足解消のための労働力として扱ってはなりません。そのため、実習であることを理由に最低賃金を下回る給与で働かせたり、法定労働時間を超える長時間労働を課したりすることは違法です。
また、実習計画書に記載していない作業ばかりさせることも、技能実習制度違反になる可能性があります。受入れ機関は、労働基準法や最低賃金法、労働安全衛生法などの関連法令を理解し、遵守を心がけなければなりません。
信頼できる監理団体を選定する
外国人技能実習制度を上手に活用するためには、信頼できる監理団体の選定が重要です。監理団体は、実習計画の作成支援や行政手続きだけでなく、業務や生活支援なども行う役割があります。
しかし、監理団体の中には、書類上の手続き代行だけを行い、現場でのサポートをほとんど行わない団体も存在します。また、OTITから指導や処分を受けている監理団体に依頼してしまうと、実習に悪影響を及ぼす可能性があります。そのため、信頼できる監理団体を慎重に選定しなければなりません。
まとめ
技能実習「介護」は、介護業界の人手不足対策として注目されています。
若くて意欲的な外国人材を確保できますが、技能実習「介護」には受入れ機関が満たすべき固有要件や、さまざまな準備が必要です。外国人技能実習制度を理解し、実習生が安心して働ける環境を整えることが、受入れ機関に求められています。
自社だけで支援体制を整えることが難しい場合は、信頼できる外部のパートナーの支援を受けることで負担を軽減できるためおすすめです。