
「人手不足で介護人材を確保したいけれど、特定技能での採用条件がよくわからない」「外国人を雇いたいが、在留資格の取得にどんな手続きが必要なのか不安」そう感じている企業の採用担当者は少なくありません。特に初めて外国人材の雇用を検討する中小介護施設では、制度の複雑さや法的な義務、支援体制の整備など、多くの壁に直面します。
2019年にスタートした「特定技能」制度は、即戦力として働ける外国人を日本の現場に受け入れるために設けられた在留資格制度であり、その中でも「介護」分野は特に注目されています。ただし、制度を正しく活用するには、外国人側の受験要件や、企業側の受け入れ条件、採用後の支援義務など、実務レベルでの理解が必要です。
今回は、特定技能「介護」の制度概要から、在留資格取得の条件、採用手続きの流れ、企業が果たすべき支援内容、さらには信頼できる外部サポートの活用方法までを、実務に即して丁寧に解説します。介護現場の人手不足解消を目指す皆様にとって、制度導入の第一歩を踏み出すための実践的なガイドとしてご活用ください。
目次
特定技能「介護」とは
まずは、特定技能「介護」制度の基礎を押さえ、従来の制度(技能実習など)との違いや対象となる業務範囲について解説します。制度の導入背景から、外国人が介護業務に従事する意義までを体系的に紹介します。
制度の創設背景
日本は急速な高齢化に直面しており、介護人材の不足が深刻な社会問題となっています。特に地方では、介護施設の運営に支障をきたすほどの人手不足が常態化しています。厚生労働省の推計では、2025年には約34万人の介護人材が不足すると見込まれています。
こうした背景から、2019年4月に「特定技能」制度が創設されました。この制度は、外国人材が一定の技能と日本語能力を有していれば、即戦力として日本で働くことを認める新たな在留資格を与えるものです。
介護分野は、特定技能1号の対象16分野の一つであり、介護業界の人材確保の鍵を握る制度として注目されています。特定技能「介護」は、実際の現場で即戦力となる外国人を対象としており、単なる研修的な位置づけの技能実習とは異なり、雇用労働の即戦力化を強く意識した制度設計となっています。
技能実習制度との違い
「技能実習」と「特定技能」は、どちらも外国人が介護現場で働ける制度ですが、その目的や位置づけ、制度的な制約には大きな違いがあります。
特定技能「介護」は、より自由度の高い働き方が可能で、労働契約も一般労働者と同様に締結されます。また、制度の透明性も高く、制度の利用を希望する外国人材にとっても、受け入れる企業にとっても導入しやすい制度となっています。
特定技能制度と技能実習制度を比較すると、下の表のようになります。
項目 | 特定技能制度 | 技能実習制度 |
---|---|---|
制度の目的 | 即戦力人材の受け入れ(労働力確保) | 技能移転(開発途上国支援) |
在留期間 | 最長5年(2号移行後はなし) | 原則3年(最長5年) |
転職 | 同職種内で転職可能 | 原則不可(職場固定) |
日本語要件 | JLPT N4相当以上 | 特になし |
業務の幅 | 実際の介護業務が可能 | 限定的、補助業務が中心 |
家族の帯同 | 不可 | 不可 |
特定技能で従事できる介護業務
特定技能「介護」の在留資格で従事できる業務は、日常生活の支援を中心とした直接的な介護サービスが主となります。具体的には、次のような業務が対象となります。
- 身体介護(食事、入浴、排せつなど)
- 生活援助(掃除、洗濯、買い物など)
- レクリエーション活動の補助
- 利用者とのコミュニケーション
- 介護記録の記入などの軽度な事務作業
これらは、日本人の介護職員と同様の業務内容であり、職場における即戦力として期待されます。ただし、医療行為(点滴や投薬など)は対象外であり、医療従事者の補助的な業務にとどまります。
また、訪問介護についてはこれまで対象外とされてきましたが、2025年春以降の制度改正により、一定の条件を満たせば訪問介護業務への従事も可能となります。これについては後述します。
特定技能「介護」の在留資格を取得する条件
続いて、外国人材が特定技能「介護」の在留資格を取得するために必要な試験・能力・経験要件について解説します。
- 技能評価試験と日本語能力試験に合格する
- 他の在留資格や実務経験で要件を代替する
- 訪問介護の従事要件を把握して準備する
技能評価試験と日本語能力試験に合格する
特定技能「介護」の在留資格を取得するには、外国人材が次の2つの試験に合格する必要があります。
- 介護技能評価試験:介護現場で求められる基本的な知識や技能を測る試験で、実際の業務に近い形式で出題されます。試験はCBT(Computer Based Testing)方式で実施され、日本国内およびフィリピン、インドネシア、ネパール、ベトナムなど海外でも実施されています。
- 国際交流基金日本語基礎テストまたは日本語能力試験(JLPT)N4以上:介護現場では、利用者や同僚との円滑なコミュニケーションが不可欠なため、日本語能力の証明が求められます。N4レベルは「基本的な日本語を理解できる」程度であり、日常会話に必要な表現や語彙が扱えるレベルとされています。
なお、合格証明には有効期限(5年)があり、申請時点で有効なものを用意する必要があります。
他の在留資格や実務経験で要件を代替する
一定の条件を満たす外国人材については、上記試験の一部または全部が免除されるケースがあります。
要件 | 概要 |
---|---|
技能実習2号の修了者(介護職種) | 技能実習2号を良好に修了した場合は、試験を受けずに特定技能1号への移行が可能です。この「良好な修了」とは、3年間の実習を満了し、監理団体・受入れ企業から不正行為などの指摘を受けていないことが前提です。 |
介護福祉士養成施設の卒業者 | 介護福祉士養成校(日本国内)を卒業し、在留資格「介護」での就労を希望する外国人については、特定技能ではなく介護ビザが選択されるのが一般的です。ただし、要件の一部は重なるため、制度理解として押さえておくとよいでしょう。 |
EPA(経済連携協定)介護候補者 | フィリピン・インドネシア・ベトナムとの協定により来日したEPA介護候補者で、所定の研修を修了し一定の介護経験を積んだ方も、特定技能への移行対象となる場合があります。 |
訪問介護の従事要件を把握して準備する
2025年春から、一定の条件下で外国人特定技能人材が「訪問介護」業務にも従事できるよう制度が改正されました。従来、外国人材による訪問介護は利用者のプライバシー保護や単独勤務のリスクを理由に制限されていましたが、次の条件を満たすことで就業が可能となります。
- 日本語能力がN3相当以上であること
- 事前に訪問介護に関する追加研修を修了していること
- 一定期間の施設内介護経験(原則1年以上)があること
- 訪問先に日本人職員との連携体制が確保されていること
企業側も、訪問介護サービスの提供体制やリスク管理マニュアルの整備、利用者・家族への事前説明などを徹底する必要があります。訪問介護の活用を検討する場合は、導入前に十分な社内準備と制度理解が求められます。
介護分野の特定技能外国人を受け入れる企業の条件
続いて、特定技能「介護」の在留資格で外国人材を受け入れる企業側が満たすべき条件について説明します。契約や労働環境の整備、支援体制の構築、法的義務の履行など、受入れ準備に必要な実務的ポイントを紹介します。
- 適正な労働契約と報酬体系を用意する
- 支援計画を策定し登録支援機関を活用する
- 法的支援義務を履行する体制を構築する
適正な労働契約と報酬体系を用意する
特定技能外国人材を雇用する際には、労働契約を締結する必要があります。その際には、日本人労働者と同等以上の待遇を保障しなければなりません。
契約の主な要件
契約に必要な内容は、日本人の正社員と同等以上の水準が必要となり、まとめると次のようになります。
- 契約期間、業務内容、勤務地、労働時間、休日、有給休暇などの明示
- 支払われる報酬額は、地域の最低賃金以上であること
- 日本人と同等以上の水準であること(例:手当や賞与の支給なども含めて判断)
外国人材が不利益を被らないよう、契約書は本人が理解できる言語(母語)で説明される必要があります。通訳の手配や、契約前の丁寧な説明が重要です。
支援計画を策定し登録支援機関を活用する
企業が外国人材を受け入れる際は、入国後の支援を行う「支援計画」を作成し、実施しなければなりません。次のいずれかの方法で対応する必要があります。
- 自社で支援計画を策定・実施する(自社実施)
- 法務省に登録された登録支援機関に委託する(委託実施)
支援計画に含まれる主な内容
特定技能1号の外国人材を受け入れる際に必要な支援計画の内容です。支援を実施した記録もきちんと残すようにしましょう。
- 空港への出迎えと住居の確保支援
- 日本語学習機会の提供
- 日常生活の相談対応
- 交通機関の利用案内
- 社会保険加入や税金手続きの補助
登録支援機関を活用すれば、これらの支援業務を専門的に代行してもらうことが可能です。初めての企業や人的リソースに不安のある企業は、委託による支援実施が現実的です。
法的支援義務を履行する体制を構築する
特定技能の受け入れ企業には、入管法により10項目の支援義務が課されています。これを怠ると、在留資格の更新が困難になる場合があり、慎重な対応が必要です。
義務的支援10項目
特定技能1号の外国人材を受け入れる際に受け入れ企業が必ず行わなければならない支援は、次のようになります。
- 事前ガイダンスの実施(契約内容や日本のルールの説明)
- 入国時の空港送迎と住居確保支援
- 生活オリエンテーションの実施
- 公的手続き(住民登録・口座開設など)の補助
- 日本語学習の機会提供
- 生活・職業上の相談対応
- 日本人との交流促進支援
- 転職時の相談・支援
- 定期的な面談と記録保存
- 不当な人権侵害を防ぐ体制の整備
支援は「やっていればよい」のではなく、支援記録の作成と保管も義務づけられているため、証拠の残る形で実施・報告する必要があります。支援体制の責任者を社内で明確に定め、対応スキームを整えておくことが重要です。
介護分野の特定技能外国人を採用する手順
続いて、実際に特定技能介護人材を採用するための手続きの流れを、時系列に沿ってわかりやすく整理します。採用前から在留資格の取得、入社後のフォローまで、採用担当者が押さえるべきポイントを紹介します。
面接から在留資格申請までの流れを確認する
採用活動のスタートは、募集・選考から始まります。一般的なフローは次のとおりです。
- 求人要件の整理・求人票作成:必要な日本語レベル、経験年数、就業条件を明確化する
- 紹介機関や現地パートナーへの依頼: 登録支援機関や現地の送出し機関を通じて候補者を募る
- 面接・選考:オンラインでの面接を実施することが主流。通訳を交える場合も多い。
- 内定・雇用契約締結:労働契約書を日本語と母国語で提示・説明する
- 在留資格認定証明書の申請(COE):入国管理局へ申請する(審査期間:約1〜3ヶ月)
入国後のオリエンテーションを実施する
在留資格認定証明書が交付されたら、外国人材は現地の日本大使館・領事館で査証を取得し、来日します。入国後はすぐに職場での業務が始まるわけではなく、次のようなサポートを通じて日本での生活をスタートさせます。
- 空港への出迎え・送迎
- 住居の引き渡しと生活必需品の手配
- 生活オリエンテーション(ゴミの出し方、交通ルールなど)
- 役所での住民登録、健康保険・年金加入手続き
- 勤務先での就業規則説明・安全衛生指導
このような対応はすべて「支援計画」の一部として実施され、記録を残して報告義務を果たす必要があります。
長期就労に向けて介護福祉士資格取得を支援する
特定技能1号は、原則として「通算5年まで」の在留が上限ですが、介護分野では「介護福祉士」の国家資格を取得することで、在留資格「介護」に切り替え、より長期の就労が可能となります。介護福祉士資格取得の主な要件は次のとおりです。
- 実務経験3年以上
- 実務者研修の修了
- 国家試験の合格
企業としては、外国人材に対して次のような支援が効果的です。
- 勤務スケジュールの調整による学習時間の確保
- 試験対策講座への参加費補助
- 日本語能力向上のための研修支援
長期的に安定した雇用を目指すなら、介護福祉士資格の取得支援は必須といえます。
介護分野の特定技能外国人の採用コストと実施すべき支援内容
続いて、採用から定着までにかかる費用と、企業が実施すべき支援の内容を具体的に解説します。予算立案の際の参考にしてみてください。
採用時に発生する初期費用
特定技能外国人を採用する際は、次のような初期費用が発生します。
- 人材紹介料:30〜60万円/人(紹介会社により異なる)
- 査証取得関連費用:約5〜10万円
- 渡航費(航空券・交通費):5〜10万円程度
- 住宅初期費用(敷金・礼金・家具):10〜20万円
- 入国時の空港送迎・生活支援:1〜2万円
企業側が全額負担するケースが多く、1人あたりの初期費用総額は50〜100万円程度を見込む必要があります。
継続雇用に必要な月額支援費
登録支援機関に支援を委託する場合、毎月の支援費用が発生します。
- 登録支援機関への月額委託費:2万〜4万円/人
- 通訳や生活支援費の実費:0.5万〜1万円/人
ただし、支援内容を自社で実施する場合はコストを抑えられる反面、人的リソースや専門知識が求められます。コストと運用体制のバランスを見ながら、適切な支援体制を検討しましょう。
【注意点】万一に備えて返金規定を確認しておく
採用後、一定期間内に外国人材が自己都合で退職した場合や、ビザ取得が不許可となった場合の返金対応についても、契約時に確認しておくべきです。
- 紹介料の返金条件・割合
- 契約解除時の違約金の有無
- 査証不許可時の手数料の扱い
これらは、紹介会社との契約書に明記されていることが一般的です。トラブル防止のためにも、事前に契約内容を精査することが重要です。
特定技能外国人材の採用は「外国人材採用ラボ」をご活用ください
スムーズで確実な外国人材の採用・定着を実現するには、信頼できる支援パートナーの存在が不可欠です。最後に、特定技能制度の理解や採用実務に不安を感じている企業担当者の方に向けて、当社株式会社クレイプラスが運営する「外国人材採用ラボ」の概要と支援内容を紹介します。
外国人材採用ラボとは
「外国人材採用ラボ」は、人手不足解消を支援するために設立された、株式会社クレイプラスが運営する外国人材専門の紹介および定着支援サービスです。介護・製造・建設など、慢性的な人手不足が続く業界を中心に多数のマッチング実績を誇ります。
このサービスでは、単なる人材紹介にとどまらず、採用後の定着支援までを一貫して提供します。法務や労務、在留資格に関する専門知識を有するチームが企業をサポートし、採用後も継続的に相談できる体制を整えていることが大きな特長です。
提供する主なサポート業務
「外国人材採用ラボ」では、採用前の段階から入社後の定着支援、さらには行政への報告対応まで、企業の外国人材採用をトータルで支援しています。一貫したサポート体制により、初めて外国人材を採用する企業でも安心して制度を導入できます。
- 採用前の制度説明・相談対応
- 申請書類作成・通訳手配・面談支援
- 定着支援・生活サポート・報告業務代行
採用前の制度説明・相談対応
採用前には、特定技能制度の概要や要件について、オンラインまたは対面による無料説明会を実施しています。また、採用戦略や求人要件の整理を支援し、企業の状況に応じた最適な人材採用プランを提案します。
申請書類作成・通訳手配・面談支援
在留資格の取得に必要な申請書類の作成を代行するほか、候補者とのオンライン面談時には通訳を配置して言語面での不安を解消します。また、適切な労働条件の整備に向けたアドバイスも行い、雇用の質の向上を支援しています。
定着支援・生活サポート・報告業務代行
採用後の定着支援としては、住居や生活用品の確保、行政手続きへの同行など、生活面でのサポートを行います。また、定期的に面談を実施し、支援記録を作成することで企業との連携を深めます。加えて、出入国在留管理庁への必要な報告業務についても代行対応しており、企業の負担を大幅に軽減します。
まとめ
特定技能「介護」の制度は、深刻な人手不足に直面する日本の介護現場にとって、即戦力となる外国人材を確保する有効な手段です。ただし、制度の理解不足や支援体制の不備があると、採用や在留資格取得に支障が出る可能性もあります。
企業としては、適正な労働契約、法的支援義務の履行、継続雇用を見据えたサポート体制の整備が求められます。そのうえで、信頼できるパートナーと連携し、制度に則った採用と定着支援を行うことが、成功のカギとなります。これから外国人介護人材の採用に踏み出そうとしている皆様にとって、今回解説した内容が実務的なガイドとなれば幸いです。
「外国人材採用ラボ」では、人材紹介から在留資格の届出・手続き、義務的支援の実行まで、ワンストップでサポートが可能です。特定技能介護人材の受け入れを検討している方は、ぜひ株式会社クレイプラスの「外国人材採用ラボ」までお気軽にお問い合わせください。「外国人材採用ラボ」の支援を活用し、第一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか?